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【2022Q1決算】半導体専業ファウンドリ大手4社の業績と今後の見通し《TSMC、UMC、GlobalFoundries、SMIC》

半導体専業ファウンドリ大手4社(TSMC、UMC、GlobalFoundries、SMIC)の2022年第1四半期決算が出揃いましたので各社の業績と今後の見通しについてまとめました。

 

 

2022年通年の半導体ファウンドリ市場の成長率は+20%前後と予測されていますが、大手4社の1 ~ 3月期売上高はその予測成長率を上回り、4社全て前年同期比+30%以上の増収となりました。中でも中国最大手のSMICは前年同期比+67%の売上高成長率を達成しています。

 

半導体業界はエンドマーケットの季節性により下半期業績の方が良い傾向にあるため、今回のファウンドリ各社の業績から2022年通年のファウンドリ市場成長率は上方修正される可能性が高いと思われます。

実際、TSMCは決算カンファレンスコールにて成長率の通期見通しを20%半ば ~ 後半に上方修正しております。

 

  • 2022年も製造委託料の値上げ姿勢を見せているファウンドリ各社
  • 稼ぎ頭であるスマホ・PC需要の減速
  • 中国のロックダウン

 

ここら辺の短・中期的なホットトピックへの理解の助長を目標に、この記事ではファウンドリ大手4社の

  • 2022年第1四半期ビジネスハイライト
  • 今後のビジネス見通し

についてまとめています。

 

 

2022年第1四半期業績

 

  TSMC UMC GF SMIC
売上高 4,911
QoQ +12.1%
YoY +35.5%
634
QoQ +7.3%
YoY +34.7%
1,940
QoQ +5.0%
YoY +36.8%
1,842
QoQ +16.6%
YoY +66.9%
粗利益 2,732
QoQ +18.4%
YoY +43.9%
275
QoQ +19.1%
YoY +120.2%
490
QoQ +23.4%
YoY +39.5%
750
QoQ +35.7%
YoY +200.0%
粗利益率 55.6%
QoQ +2.9ppt
YoY +3.2ppt
43.4%
QoQ +4.3ppt
YoY +16.9ppt
25.3%
QoQ +3.8ppt
YoY +18.3ppt
40.7%
QoQ +5.7ppt
YoY +18.0ppt
営業利益 2,238
QoQ +22.4%
YoY +48.7%
223
QoQ +26.7%
YoY +193.0%
279
QoQ +96.5%
YoY +393.7%
536
QoQ +27.6%
YoY +330.2%
営業利益率 45.6%
QoQ +3.9ppt
YoY +4.1ppt
35.2%
QoQ +5.4ppt
YoY +19.0ppt
14.4%
QoQ +6.7ppt
YoY +21.1ppt
29.1%
QoQ +2.5ppt
YoY +17.8ppt
EPS 7.82
QoQ +22.0%
YoY +45.1%
1.61
QoQ +23.9%
YoY +89.4%
0.42
QoQ +133.3%
YoY +268.0%
0.06
QoQ -14.3%
YoY +200.0%

売上高・粗利益・営業利益単位: TSMC・UMCはNT$億、GF・SMICはUS$M

EPS単位: TSMC・UMCはNT$、GF・SMICはUS$

 

売上高成長率推移

 

ファウンドリ大手4社の売上高前年同期成長率推移

 

粗利益率推移

 

ファウンドリ大手4社の粗利益率推移

 

営業利益率推移

 

ファウンドリ大手4社の営業利益率推移

 

TSMC

半導体ファウンドリ世界最大手のTSMC(TWSE: 2330、NYSE: TSM)。

 

 

  • Q1のビジネスハイライト
  • 最先端プロセス「N3」の動向

についてまとめております。

 

ビジネスハイライト

売上高 QoQ +12.1% / YoY +35.5%

 

プラス成長主要因

  • HPC (High Performance Computing)や自動車の需要が当初の予想を上回った
  • スマートフォンも当初の予想を上回った
  • COVID-19による行き先の不透明感が顧客側での在庫確保継続に繋がった

 

 

セグメント別売上高占有率推移

 

 

2022年第1四半期にてHPCセグメントがスマートフォンセグメントの売上を上回りました。

  • HPCセグメント: 41%
  • スマートフォンセグメント: 40%

 

前期比成長率では+26%となり、自動車セグメントと並んで同社で売上高前期比成長率の最も高いセグメントとなりました。

 

 

粗利益率 QoQ +2.9ppt / 営業利益率 QoQ +3.9ppt

 

Q1粗利益率は前期比+2.9ppt、前年同期比+3.2pptの55.6%となりました。

粗利益率改善については、①コスト改善と②台湾ドル-米ドルの為替が有利に影響したとのことです。

 

営業利益率改善については、ワクチン寄付金の減少を挙げています。

 

今後の収益性については

  • インフレによるコスト上昇
  • 主要ノードのプロセス複雑化
  • 成熟プロセスへの新規投資
  • 海外拠点拡張

による製造面での課題を懸念材料に挙げておりました。

 

最先端の3nmプロセス「N3」

TSMC製最先端3nmプロセス「N3」の量産はスケジュール通りで今年後半に立ち上げとなります。

まずはスマートフォンとHPC向けの半導体チップが製造されます。

 

 

最先端プロセスの収益性

 

収益貢献時期については2023年となっておりますが、新規プロセスノードはその複雑化とコスト面により、立ち上げから7 ~ 8四半期は全社平均の粗利益率に達するのは難しいというのが会社の見解です。

 

過去の事例(N7、N5)を見ると新規ノード立ち上げ初年度におけるウエハ収益貢献度は大体10%となっておりますので、2023年決算にてN3の売上がTSMC売上全体の10%程度となっている資料スライドを確認できるのではないかと思われます。

 

 

プロセスノード別売上高占有率推移

 

 

プロセスノード別の売上高占有率推移グラフを見ると、2022年第1四半期時点で

  • ウエハ売上に占める5nm、7nmの割合はそれぞれ20%、30%
  • 5/7nmから成る最先端テクノロジーの売上高比率が50%を占める

 

来年よりN3(TSMC製3nmプロセス)の売上が入ってくるため、7nm以下の最先端テクノロジーの売上比率は更に高まると思われます。

 

UMC

半導体ファウンドリ2021年売上高ランキングでは3番手となっていますが、専業ファウンドリ(半導体受託製造ビジネスのみを行う会社)では世界2位となるUMC(TWSE: 2303、NYSE: UMC)。

3番手と言いながらも、後述するGlobalFoundries、SMICとは同程度の売上規模になりますので3番手に3社という感じです。

 

これら3社は最大手のTSMCとは異なりレガシープロセスをビジネスの中核としています。

 

 

  • Q1のビジネスハイライト
  • 今後の設備投資動向

についてまとめております。

 

ビジネスハイライト

売上高 YoY +35% / ウエハ出荷数 YoY +5.6%

 

ASP(平均販売価格)改善により、前期比+7.3%、前年同期比+35%のNT$63.4B(US$2.2B)となりました。

200mmウエハ換算でのウエハ出荷枚数は約251万枚で前年同期比+5.6%でした。

前期比では-1.3%。

 

また不揮発性メモリ、パワーマネジメント、RFSOI、有機ELディスプレイドライバ向けの特殊テクノロジーに注力するビジネス戦略に変更した結果、これらがウエハ収益の半分以上を占めるまでに成長しております。

 

 

粗利益 YoY +120% / EPS YoY +90%

 

利益、EPSは前年同期比で倍増しました。

 

  • 粗利益 YoY +120%
  • 営業利益 YoY +193%
  • EPS YoY +90%

 

増収増益の主要因

  • ファブ稼働率100%維持
  • ASP改善

 

今後の設備投資動向

COVID-19や地政学的な問題による市場の変動への懸念を見せつつ、ポジティブな需要見通しは変わらないようです。

また生産能力の拡張を行なっていたFab 12A P5が稼働し始め、これまで満たせなかった28nmの過剰需要に対応できるようになります。

 

UMCのプロセスノード別の売上高占有率推移グラフを見ると、2022年第1四半期時点で22/28nmの売上が全体の20%となっております。

過剰需要となっていたこのプロセスノード帯の生産能力拡張が終わり、今後の売上貢献にてこのプロセスノードの比率が高まっていくと思われます。

 

 

プロセスノード別売上高占有率推移

 

 

一方で海外拠点の生産能力増強も積極的に進めておりますので、そちらについてもまとめました。

 

シンガポール拠点

  • 22/28nmの新ファブ計画
  • 2024年からの複数年の供給契約完了

 

日本拠点

  • デンソーと協業で車載向け300mmファブでのパワー半導体IGBTの生産
  • 現在のIGBT供給不足を補う代替策
  • デンソーが半導体製造装置の設備投資を負担
  • UMCの日本子会社のUSJCがクリーンルームと施設の設備投資を負担

 

スケジュール

  • 2023年: 生産開始
  • 2025年: 月産1万枚の生産規模

 

GlobalFoundries

AMDからスピンオフした会社で、去年末にニューヨーク証券取引所へIPO上場しました。ティッカーシンボルは$GFS。

 

 

  • Q1のビジネスハイライト(会社全体)
  • セグメント別ビジネスハイライト

についてまとめております。

 

ビジネスハイライト

売上高 YoY +37% / ウエハ出荷数 YoY +14%

 

ウエハ出荷数とASPが前年同期比で増加した結果、Q1売上高は前年同期比+37%のUS$1.94Bとなりました。

ガイダンスを上回っております。

 

300mmウエハ換算でのウエハ出荷枚数は約62.5万枚で前年同期比+14%でした。

特にドイツのドレスデン工場では前年同期比+50%のウエハ出荷枚数を記録。

 

ウエハ1枚あたりの平均販売価格は前年同期比+19%。

 

価格上昇の要因として

  • LTA(長期契約)の価格改善
  • 建設的な取引価格環境
  • 製品ミックス改善

を挙げています。

 

セグメント別ビジネスハイライト

 

セグメント別売上高推移

 

 

セグメント別売上高占有率推移

 

 

セグメント別売上高前年同期比成長率

 

 

成長率の高い以下3つセグメントのQ1ビジネスについて振り返っていきます。

  • Communications: 通信インフラ・データセンター
  • IoT: 家庭・産業用IoT
  • Automotive: 自動車

 

 

通信インフラ・データセンター YoY +80%

 

売上の約17%を占める通信インフラ・データセンターは前年同期比+80%の成長を達成しました。

 

通信インフラ、データセンター共に需要が強く、

  • 出荷台数の増加
  • ASPの上昇
  • 製品ミックス改善

が+80%成長の要因となっています。

 

また当四半期に第2世代のシリコンフォトニクスプラットフォームを発表しております。

NVIDIA、Broadcom、Marvell、Ciscoなどの業界大手企業がGlobalFoundriesのシリコンフォトニクスを使用して高性能コンピューティング、高性能ネットワーク、クラウドデータセンター向けの広帯域かつ低消費電力の半導体ICを設計しているとのことです。

さらに量子コンピューティング市場にも拡張されており、アメリカの光量子コンピュータベンチャー企業のPsiQuantum社も本プラットフォームを使用して量子コンピュータを設計・構築しているようです。

 

2022年通年で+50%の成長を見込んでいるとのことで、後述するIoT市場と並んでGlobalFoundriesの主要エンドマーケットになってきそうです。

 

 

家庭・産業用IoT YoY +55%

 

売上の約17%を占める家庭・産業用IoTは前年同期比+55%成長でした。

 

需要の増加、ASPの改善、豊富な製品ミックスに加え、GlobalFoundriesの強みである低消費電力でかつ優れた無線接続性を実現する特殊テクノロジーにより力強い成長を遂げました。

 

この市場は

  • 第6世代のWiFi(WiFi 6)
  • デジタル決済
  • ビルディングオートメーションシステム(BAS、ビル管理・中央監視システム)
  • セキュリティ

によるスマートコネクテッドデバイスの普及により継続的な成長を遂げています。

 

 

自動車 YoY +170%

 

売上の約4%を占める自動車関連は前年同期比+170%の大幅増となりました。

(全四半期でもYoY +187%の非常に力強い成長を達成しています。)

 

この分野は今後の生産能力増強が進むにつれ、加速度的に売上が成長していくと見込まれています。

 

  • 自動車の電動化
  • 電気自動車の生産計画拡大

による堅調な需要が続くとのことです。

 

GlobalFoundriesの強みである特殊テクノロジーが自動車用レーダーシステムやバッテリー管理システム、その他アナログ半導体に採用されています。

 

SMIC

半導体ファウンドリの中国最大手であり、香港証券取引所と上海証券取引所に上場しているSMIC。

 

 

  • Q1のビジネスハイライト
  • Q2のビジネス見通し(中国ロックダウンの影響)

ついてまとめております。

 

ビジネスハイライト

売上高 YoY +67% / ウエハ出荷数 YoY +18%

 

ウエハ出荷数、ASPと製品ミックス改善によりQ1売上高は前年同期比+67%のUS$1.84Bとなりました。

 

200mmウエハ換算でのウエハ出荷枚数は約184万枚で前年同期比+18%でした。

前期比では+6.8%。

 

 

粗利益率 YoY +18.0ppt / 営業利益率 YoY +17.8ppt

 

  • 粗利益: YoY +200.0%
  • 粗利益率: YoY +18.0ppt(22.7% → 40.7%)
  • 営業利益: YoY +330.2%
  • 営業利益率: +17.8ppt(11.3% → 29.1%)

 

粗利益率はガイダンスを上回りました。ガイダンスを上回った理由として中国のロックダウンを挙げており

  • 一部のファブの定期メンテナンス延期
  • 天津と深圳ファブへの影響が予想より小さかった

としています。

 

 

プロセスノード別売上高占有率推移

 

 

今四半期よりプロセスノード別の売上開示を辞め、ウエハサイズ別の売上開示に変更しております。

SMICの決算開示レポートでは以下のよう対応になっているようです

  • 200mmウエハ: 0.35um ~ 0.11um
  • 300mmウエハ: 90nm ~ 14nm FinFET

 

第2四半期ガイダンス

  • 売上高: QoQ +1% ~ +2%
  • 粗利益率: 37% ~ 39%

 

来期の粗利益率は若干低下し、Q1の40.7%から2 ~ 4ppt程度減少の範囲で37 ~ 39%予想となっております。

 

粗利益率低下要因としましては

  • 延期した一部のファブ定期メンテナンスをQ2で実施
  • 現在も継続してる上海ロックダウンの影響

 

特に2点目に関しては上海ロックダウンの影響度が不透明だという旨がカンファレンスコールのQ&Aで述べられていました。いまだにロックダウンの続く上海市に位置する上海ファブのオペレーションがQ2業績へどのぐらい影響するかは、SMIC経営陣の方で逐次見積もりを実施しているようです。

 

まとめ

  • ファウンドリ4社のQ1売上は2022年通年のファウンドリ市場成長率の当初予測を上回った
  • ウエハ出荷数増、ASP上昇や製品ミックス改善により4社ともに売上高YoY +30%以上
  • 特にSMICはYoY +67%
  • TSMCはファウンドリ市場の2022年通年成長率を上方修正
  • TSMC製最先端プロセス「N3」は今年後半に量産開始(スケジュール通り)
  • UMCは過剰需要の28nmプロセスを中心に生産能力拡張中
  • さらにデンソーと協業で車載向け300mmファブでのパワー半導体IGBTの生産
  • 去年赤字から脱却したGFは利益率改善を進める
  • ドイツのドレスデン工場ではYoY +50%のウエハ出荷枚数を記録
  • 中国ロックダウンによるSMICのQ1業績への影響は小さいものとなった
  • ただ、①Q1で延期したファブの定期メンテナンス実施、②未だに続く上海ロックダウンによりQ2ガイダンスは弱気

 

では、この辺で。

拜拜~