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【2022CQ1決算】データセンター半導体ファブレス大手3社の業績と今後の見通し《AMD、NVIDIA、Marvell》

データセンター向け半導体ファブレス大手3社(AMD、NVIDIA、Marvell)の業績と今後の見通しについてまとめました。

AMDは1 ~ 3月期、NVIDIAとMarvellは2 ~ 4月期業績となります。

 

各社動向

  • AMD: 買収したXilinx社のFPGA、Pensando社のDPUを活用してハイパースケールのみならずエッジデータセンターにも力を入れる
  • NVIDIA: 買収したMellanox社のネットワーク技術とNVIDIA GPUとのシナジー図る。サーバー向けCPUに参戦
  • Marvell: コンピューティング、ネットワーキング、ストレージとオールマイティなデータセンタービジネス。データセンター向け次世代アーキテクチャCXLに力を入れる

 

 

最近の米国テック企業動向に目を向けると

  • Meta、Twitter、Uberらテック大手による採用計画見直し
  • Netflixは従業員300人解雇

といった、コスト削減を目的とする新規雇用の大幅鈍化や従業員削減が見られます。またMicrosoftは第4四半期(4 ~ 6月期)業績の下方修正を行いました(Microsoftは売り上げの半分を米国以外で計上しているため、為替変動の影響が大きいことに注意)。

 

データセンター市場は今年一年通して高い成長が期待されていますが、テック企業はAI、クラウドサービス、オンライン決済等、大小問わずサーバー及びデータセンター向けの高性能な半導体を間接的に使用する顧客であるため、不況を身構えるテック企業の動向がデータセンター投資へ与える影響が全くないとは考えにくく、データセンター需要の強気な姿勢に若干疑問が残ります。

 

この記事ではデータセンター半導体ファブレス大手3社の

  • 第1四半期のデータセンタービジネスハイライト
  • 今後のデータセンタービジネス見通し

についてまとめています。

 

 

AMD

Intel(NASDAQ: INTC)に次ぐCPUシェアを誇っており、最近はサーバー向けCPU市場でシェアを伸ばしております。ティッカーシンボルは$AMD。

 

2022年1 ~ 3月期業績

売上高 QoQ +22% / YoY +71%

 

Xilinxの業績を含めた第1四半期の売上高はUS$59億で過去最高を記録しました(AMDの売上高推移は後述グラフを参照)。

 

今年2月にFPGA大手Xilinx社の買収が完了し、今四半期決算よりXilinxの業績が計上されております。Xilinxの業績を除いた売上高はUS$53億で前年同期比+55%となります。

 

 

粗利益・営業利益 YoY +100%

 

粗利益率は53%で前年同期比6.6ポイント増となりました。Xilinxの寄与を除くと、4.8ポイント増の51%となります。利益率の高いサーバー向けプロセッサをコアビジネスとするXilinxの業績がAMD全体の利益率を押し上げる結果となりました。

 

粗利益と営業利益はともに前年同期比で倍増となりました。AMDとXilinxともにサーバー向けプロセッサビジネスが好調でした。

 

7四半期連続で前年同期比45%以上の収益成長、過去10四半期で前年同期比60%以上の純利益増加を達成しています。

 

AMDの売上高推移(全社売上 = エンタープライズ/エンベデッド/セミカスタムセグメント + その他セグメント)

 

 

第1四半期決算での報告セグメントは

  • コンピューティング&グラフィックス
  • エンタープライズ/エンベデッド/セミカスタム
  • Xilinx社

となっておりますが、本記事では「エンタープライズ/エンベデッド/セミカスタムセグメント()」と、それ以外のセグメント「その他()」に分けております。

 

 

上記の通りAMDはデータセンター単体でのセグメント報告はしておりません。

ただ第2四半期より報告セグメントの再編が実施されるとのことで、次四半期よりデータセンター事業単体の業績開示がなされると思われます。

 

データセンター

データセンターの売上は全体売上の20%台前半でした。

(AMDの決算カンファレンスコールQ&Aセッションより)

 

AMDの第1四半期売上高がUS$59億でしたのでデータセンターの売上はUS$12 ~ 14億程度となります。

売上高成長率は前年比で倍増だったようです。

 

AMD エンタープライズ/エンベデッド/セミカスタムセグメントの売上高前年同期比推移

 

 

データセンター半導体を含めたエンタープライズ/エンベデッド/セミカスタムセグメントの売上高はUS$25億、売上高成長率は前年同期88%増となりました。

サーバー用セミカスタム及び組込み用プロセッサが好調でした。

 

 

CPU

 

サーバー向けCPUの売上高は前年同期比で2倍以上、前四半期比でも2桁の伸びを記録しました。

Alibaba、Amazon、Baidu Cloud、Microsoft Azure、Googleなどのハイパースケールコンピューティングの顧客による内部インフラ導入拡大の際にAMD製チップ搭載のクラウドインスタンスを立ち上げたことが増収に貢献しました。

 

過去10四半期のうち、8四半期でサーバーCPUの売上が前年同期比で2倍以上になっており、クラウド、エンタープライズ、HPCの顧客から「EPYC(AMD製サーバーCPU)」需要の強さを占めております。

 

 

GPU

 

データセンター向けGPUの売上高は前年同期比で横ばいでした。

 

ビジネスハイライト

  • 「Instinct(データーセンター向けGPU)」のMI210発売
  • 「ROCm 5.0(Instinct GPU向けターンキー型ソフトウェアプラットフォーム)」発表

 

 

FPGA

 

買収したXilinx社のFPGAは

  • FPGAaaS (FPGA-as-a-Service)
  • SmartNIC

という形で搭載・販売されており、ハイパースケールコンピューティングのティア1への展開拡大や、フィンテック企業との低遅延ネットワーキングソリューションによって売上高を伸ばしております。

 

SmartNICはネットワークやストレージ、セキュリティ機能を向上させられるプログラマブルなNIC (Network Interface Card)のことです。

近年、データセンター内のサーバーCPUには高負荷がかかるようになっており、負荷の高いパケット処理をサーバーから切り離してCPUの負荷軽減に一役買っております。

 

今後の見通し

第2四半期業績

 

第2四半期のAMD全体の売上高は

  • 前期比+10%
  • 前年同期比+70%

のガイダンスとなっております。Xilinxの収益計上に加え、サーバー、セミカスタム、クライアントの収益増加が売上高前年同期比大幅増加の要因となります。

 

 

2022年通年業績

 

2022年通年の売上高は前年比+60%と大幅増加見込みとなっておりますが、こちらにおいてもXilinxの収益が3.5四半期分追加されることに注意が必要です。

 

いずれにしてもPC市場へは保守的なガイダンスを示しながらも、エンタープライズ向け半導体ビジネスがAMDの売上を牽引していきそうです。

 

 

AMDは

  • Xilinx社のFPGA(買収完了)
  • Pensando社のDPU・ネットワーク(2022年5月に買収発表)

を製品ポートフォリオに組み入れ、クラウドやハイパースケールだけでなくエッジデータセンターへの参入、そしてハードウェアとソフトウェアの両面からデータセンター半導体の最適化を図ろうとしております。

 

XilinxのFPGA搭載AI推論エンジンを統合した新プロセッサが2023年に発売される予定となっており、非常に楽しみであります。

 

NVIDIA

ゲーミングやプロクリエイター向けのGPUを主軸に、近年は仮想通貨マイニング、データセンター、自動運転とアプリケーションの拡大を図る"謎の半導体企業"(NASDAQ: NVDA)。

 

2022年2 ~ 4月期業績

売上高 QoQ +8% / YoY +46%

 

2022年2 ~ 4月期の売上高はUS$83億で過去最高を記録しました(売上高推移グラフは下記図参照)。

データセンターとゲーミングの両セグメントで過去最高の売上高を達成しております。

 

NVIDIAの売上高推移(全社売上 = データセンターセグメント + その他セグメント)

 

 

NVIDIAの決算報告セグメントは

  • データセンター
  • ゲーミング
  • プロフェッショナルビジュアライゼーション
  • 自動車
  • OEM及びその他

で構成されておりますが、本記事では「データセンターセグメント()」にスポットを当て、それ以外のセグメントを「その他()」と区分しております。

 

データセンター

データセンターセグメントの売上高はUS$38億でした(上記グラフ参照)。

過去最高の売上高を記録しました。

 

売上高成長率は

  • 前年同期比 +83.1%(下記グラフ参照)
  • 前期比 +14.9%

 

NVIDIA データセンターセグメントの売上高前年同期比推移

 

 

ハイパースケールコンピューティング及びクラウドコンピューティングの顧客からの収益が前年同期比で倍以上の増益となり、今四半期の売上高を押し上げました。

 

顧客のインフラ構築にNVIDIAの半導体が多数導入され、ニューラルネットワークやディープラーニングにおける学習及び推論フェーズにてNVIDIAのGPU「A」シリーズの採用が広がったとのことです。

 

Aシリーズ(A100、A40等)は第3世代のTensorコアを導入したAmpereアーキテクチャのGPUです。

後述するHシリーズ(H100)は第4世代のTensorコアを導入したHopperアーキテクチャのGPUになります。

 

またデータセンター向けネットワーキング製品の収益も好調で、25/50/100ギガのイーサネットアダプタへの幅広い需要の存在を明かしておりました。

 

NVIDIAの演算チップ(CPU、GPU)と(旧Mellanoxの)ネットワーキング製品を組み合わせてデータセンターを構築する顧客が増えてきており、Mellanox社買収による相乗効果が生まれているように思えます。

 

NVIDIAのネットワークビジネスは2020年に買収したMellanox社を基盤としております。

 

今後の見通し

第2四半期業績

 

第2四半期のデータセンターセグメントの売上高はロシア向け売上がゼロである影響をUS$1億と予測されております。

NVIDIAはロシアと中国でのゲーム機販売減少によりUS$4億のゲームセグメント売上減少を見積もっておりますが、データセンターと自動車関連の好調な伸びでカバー可能としております。

 

次にデータセンター向け主力製品

  • ネットワーキング
  • GPU
  • CPU

の今後の動向を見ていきます。

 

 

ネットワーク: 供給難続く

 

ネットワークシステムの構築にはトランシーバー、コネクタ、ケーブルなど多数の物理的な部品が必要で複雑なシステムとなっております。複雑なシステムであるが故に今日のサプライチェーン問題が浮き彫りになっております。

サプライヤーのサポートもあり去年の第4四半期以降、四半期毎に供給量の増加を達成しており、ネットワーキング製品の収益は好調としつつも、依然として供給不足が続いているようです。

 

決算では今年中の改善を見込んでいると発言がありましたが、引き続き注視していく必要があると思われます。

 

 

GPU: 次世代ハイエンドモデル投入

 

「A100」の後継モデル「H100」が今年第3四半期に市場投入される予定です。

 

第4世代のTensorコアを導入したHopperアーキテクチャのGPUです。TSMC製4nmプロセス「N4」で製造され、次世代データセンターのワークロード

  • 大規模言語モデル
  • レコメンダーモデル

に最適な高性能GPUとして期待されております。

 

現在サーバー及びハイパースケールデータセンターの主要顧客と協力してH100の認定を進めているようです。

 

 

CPU: NVIDIA初のデータセンターCPU投入

 

来年2023年前半にはNVIDIA初のデータセンター向けCPU「Grace」の発売が予定されております。

 

先月開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2022では、ASUS、Foxconn、Gigabyteらによって、Graceを搭載した数十のサーバーモデルが市場に投入されると発表されました。

 

これらのサーバーには

  • Grace CPU Superchip(2つのGrace CPU搭載)
  • Hopper GPU

の統合モデルである「Grace Hopper Superchip」が搭載される予定となっております。

 

クラウドグラフィックス、デジタルツイン、HPCやAIらの次世代データセンターにおける膨大なワークロードに対応するHGX(NVIDIA製のAI開発プラットフォーム)です。

 

NVIDIA製のCPU・GPUのみならず、InfiniBandネットワーク、そして独自の高速コヒーレントインターコネクト規格「NVLink」を導入し、シリコンダイからシリコンダイ、チップからチップ、そしてシステムからシステムへの拡張を可能としております。

 

 

前述したAMD、後述するMarvellにおいても同様ですが、単体の演算チップやネットワークスイッチのスタンドアローン販売形態から、これらを組み合わせたトータルソリューション販売モデルへの移行が感じられます。

 

Marvell

最先端プロセスのユーザーと言えば、Appleを筆頭にQualcomm、Intel、AMD、NVIDIAのような汎用プロセッサ設計企業を思い浮かべると思いますが、Marvell(NASDAQ: MRVL)も最先端プロセス採用に積極的なベンダーの一つとなります。

 

コンピューティング、ネットワーキング、エレクトロオプティクス、ストレージ用途の高性能半導体ICを最先端プロセスにて提供しております。

 

2022年2 ~ 4月期業績

売上高の増加は主にデータセンター市場が牽引したものになりますが、キャリアインフラ市場や自動車関連市場も好調であり、いずれも想定を上回りました。

売上高推移は後述グラフを参照下さい。

 

Marvellの売上高推移(全社売上 = データセンターセグメント + その他セグメント)

 

 

Marvellの決算報告セグメントは

  • キャリアインフラ
  • エンタープライスネットワーク
  • 自動車
  • 産業機器

で構成されておりますが、本記事では「データセンターセグメント()」にスポットを当て、それ以外のセグメントを「その他()」と区分しております。

 

データセンター

データセンターセグメントの売上高はUS$6億でガイダンスを上回りました(上記グラフ参照)。

コンピューティング、ネットワーキング、ストレージの複数の製品ラインが幅広く貢献しております。

 

売上高成長率は

  • 前年同期比 +131.1%(下記グラフ参照)
  • 前期比 +11.6%

 

Marvell データセンターセグメントの売上高前年同期比推移

 

 

コンピューティング

 

今四半期中にハイパースケールデータセンターの顧客からカスタムSmartNICを受注しております。

 

Marvellの手がけるDPU「OCTEON」シリーズの最新チップ「OCTEON 10」(第7世代DPU)は5nmプロセスで製造されており、この最新チップが最新のSmartNICに搭載されていると思われます。

 

今日のデータセンターではDPUの採用が進んでいることからも、Marvellは今後も最先端プロセスのプラットフォームを強化していくと思われます。

 

 

エレクトロオプティクス

 

データセンター内の要求データ伝送帯域幅が高まり続ける中でPAMソリューションとデータセンター間のZRプラグケーブルに対する強い需要があります。

現在、クラウドデータセンター大手ティア1がMarvellのPAMベースの200ギガ及び400ギガソリューションの大量導入推進中とのことです。

 

PAMというのは光信号変調方式の一つで、データセンター内の光イーサネットに要求される数百Gbit/sの伝送速度に必要不可欠な要素です。

一般的なデジタルICにはデジタル信号を0と1の2値で伝送するNRZ方式が用いられていますが、PAM伝送方式では1タイムスロットあたりに2bit以上の値を伝送します。

NRZ: Non Return to Zero
PAM: Pulse Amplitude Modulation

 

  • サーバーCPUの性能向上がPAM技術の必要性を加速させる
  • 光通信モジュールあたりのシリコンコンテンツ増加

をMarvellは見込んでおり、今後も大幅な成長が期待されております。

 

 

ストレージ

 

今四半期のクラウド向け大容量ストレージ需要は引き続き増加しました。

 

  • HDD: ニアラインHDD向け制御ICとプリアンプが堅調な伸び
  • SSD: SSD向け制御ICは前年同期比で大幅増益

 

ニアラインストレージはオンラインストレージほど高速・高性能ではないが、磁気テープなどのオフラインストレージとは異なり、必要なときに高速なアクセスが可能なストレージを指します。

オンラインストレージとオフラインストレージの中間に位置づけられるストレージ製品区分です。

 

Marvellは2016年以降、SSD事業への投資に集中しております。

  • SSD制御ICに搭載するコアIP開発への投資増加
  • ファームウェア開発チームを4倍に増やす
  • PCIe規格の次世代(第5/6世代)への投資開始

 

今後の見通し

第2四半期業績

 

第2四半期のデータセンターセグメントの売上高は

  • 前期比で1桁台前半
  • 前年同期比で約50%

の伸びが会社より公表されております。

 

好調だった第1四半期に続き、第2四半期も継続的な成長が見込まれています。特に、クラウドからの収益がオンプレミスを大幅に上回る成長を遂げると予想されております。

 

オンプレミスは、サーバーやソフトウェアなどの情報システムを使用者が管理している施設の構内に機器を設置して運用することを指します。「自社運用」とも呼びます。

これに対して、サーバーやシステムを自社に置かず、ネットワーク経由でサービスを使う形態がクラウドです。

 

第2四半期以降の下半期にはクラウド及びイーサネットスイッチの更なる貢献と、クラウドに最適化したASIC(カスタム設計)の大規模な受注の存在を示唆しており、2022年後半もデータセンターセグメントの業績は良いと思われます。

 

まとめ

  • 3社のデータセンター事業の第1四半期売上高は以下の通り
  • AMD:: US$12 ~ 14億 / YoY +100%
  • NVIDIA: US$38億 / YoY +83%
  • Marvell: US$6億 / YoY +131%
  • 多数の部品で構成されるネットワークシステムは供給網に問題あり
  • 単体の演算チップやネットワークスイッチのスタンドアローン販売形態から、これらを組み合わせたトータルソリューション販売モデルへのビジネスモデル移行
  • 各社の戦略は以下の通り
  • AMD: 買収したXilinx社のFPGA、Pensando社のDPUを活用してハイパースケールのみならずエッジデータセンターにも力を入れる
  • NVIDIA: 買収したMellanox社のネットワーク技術とNVIDIA GPUとのシナジー図る。サーバー向けCPUに参戦
  • Marvell: コンピューティング、ネットワーキング、ストレージとオールマイティなデータセンタービジネス。データセンター向け次世代アーキテクチャCXLに力を入れる

 

では、この辺で。

拜拜~